ハタチそこそこで上京して、といっても東京ではなく、横浜の長津田から徒歩10分くらいのアパートに暮らした数年がある。その頃は、足繁く町田の中古レコード屋に通って買い漁ったものだ。行くたびに3~4軒をたっぷり時間をかけて巡る。ブルースレコードガイドブックや、コテコテ・デラックスというジャズ批評の別冊で出ていたソウルジャズのガイド本などで目星をつけてたレコードを探すのと、それがなければ、ジャケットか裏ジャケのメンバークレジット、もしくは曲名を手掛かりに、全く知らないミュージシャンのアルバムを買うチャレンジ・メニューだ。それもパッとしなければ、プレスティジやリヴァーサイドあたりのリイシューを出していたOJCシリーズとか、レア・グルーヴ関連の再発を…とにかく手ぶらで帰る日はほとんどなかった。
それらを、やはり町田の質屋で買った、割と上等なケンウッドのターンテーブルと、実家から持ってきたトリオのアンプで鳴らすのだった。そして、それに合わせてギターを弾くのが最高の時間なのである。酒も飲まないし、飯なんてパスタを茹でて食ってりゃ充分だったし、友達も面倒くさかった。とにかく沢山の音に触れたかったのだ。そして少し心を病んでいたのかも知れないとも思う。あの頃の自分をそっと抱きしめてあげたい気持ちになってきたではないか。
渋谷のレコード屋に勤めるようになってからは、さらに拍車が掛かった。なにしろ店の帰り道、渋谷駅に辿り着くまでに5軒もあるのだ。レコード屋が。そして何しろ引きが強いオレなのだ。と、当時は信じ込んでいたけれど、数打てば当たるというやつだったような気もする。この頃、カリプソやキューバ、アフリカの音にも興味が沸いてしまい、根掘り葉掘りをまた最初からやるハメになる。
中学の同級生だった斉藤くんが聴かせてくれたロバート・ジョンソンは、当時は全く意味がわからなかったけれど、数年経ってグイグイ来た。そういう経験もあって、「誰かしらが丹精込めて作った作品を理解できなかったとしたら、それは自分が未熟なのだ」という、謎の信念みたいなものがこの時代の自分にはあって。今思えば、なんて謙虚な若者だろう。が、これは、買ったものの元をとりたい根っからの貧乏性から来るものところも大きかったのかも知れない。とにかく、レコード一枚聴いて、ギターのフレーズなり、リズムなり、アレンジなり、何かしらの良いところを見つける。ひらめきである。見つけられるまで聴くのだ。こういうことを対人関係で出来ていたらもっと素晴らしい未来があったのかも知れないとも思うが、とにかく色々とバランス感覚の悪い青春だった。
日々、街を往復してレコードを持ち帰る。まるで花粉を巣に運ぶミツバチのようだ。LP一枚はジャケット含めて300グラムそこそこだと思うが、塵も積もれば、である。ついに、レコード棚にしていた押し入れの床が抜けてしまうという事態に…。この続きはまた!機会があったら。
皆さま、どうぞ愉快なレコード・ライフをお過ごしくださいませ。
ワダマコト(カセットコンロス)
カリプソ狂。結成20年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト / シンガー。ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由カリプソ。BLUES & SOUL誌の連載ほか、音楽についての執筆業も。妻x1、クロネコx1、シロネコx2、と共に暮らしています。
音楽活動のない日は、東横線の綱島駅と大倉山駅が最寄りの、音楽と雑貨の店ピカントにいます。
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