LOVE VINYL COLUMN

「未来は個人レベルで小さなことから変えていくことで今よりも世界を豊かにすることができると思う。」

照井利幸
(BLANKY JET CITY/ROSSO/RAVEN/TWIN TAIL/PONTIACS/WELD MUSIC/THERE)

2020.06.30

「長い春休み」

2020年の幕開けからあちらこちらで報道され始めたコロナウイルス感染のニュース。
当初、他人事のように気にも留めていなかったが日に日に深刻化し始め、あっという間に全国レベルで緊急事態となった。
感染者は増え続け死者も出始めた頃には、見えないウイルスの恐怖に予防マスクや保存食を求めてスーパーや薬局に長蛇の列ができ買い占めによる品切れが多発。
経済はどんどん落ち込み先行きの見えない不安に喘ぐ人たちが増える中、その深刻さからは想像もつかないほどあやふやな日本政府の対応に国民は呆れかえる。

4、5月に予定していたライブツアーはすべて中止、こんな時だからこそ動かなきゃと意気込みフリーライブを計画するが、当然そんな無茶ができるわけもなく最後の抵抗は呆気なく降参となる。
真っ白になったスケジュール、自粛要請、無収入、有り余る時間。
こうなってしまうと後はどうにでもなれと思ってしまう。

1週間くらいは何もする気にはならずダラダラと映画を観たり本を読んだり腹も減っていないのに無駄に食べたりとしているうちにそれにもウンザリしてきた。
休業したままになっている自分の店(http://there.tokyo)をアトリエにリニューアルしようと片付けたり自宅の作業部屋を使いやすく整頓したりと普段なかなかできなかったことをやってるうちに気持ちも前向きになってきた。

脳裏に纏わり付く不安は何一つ解消されないが幾ら考えても堂々巡りするだけ、ならば有り余る時間があるこの機会にじっくりと向き合える何かをしようと思い新作のレコーディングを開始した。

作業早々にPCの不具合で散々振り回されるが自分の無知さを改めようと根気よく一つ一つ解決していった。音楽を作ることは得意でもメカには弱い。
大体、説明書が嫌いでいつも成り行きに任せてやってるだけだから結局こういう時に苦労することになる。

これからの事を考えいつも人任せであるMIXやマスタリングのスキルも身につけようと、そうすれば自分のペースで音楽作りができるし出費も抑えられる。
そんな自分レベルで変えられることが日常にたくさんある。

その一つ一つの試みは絶対に無駄にはならないし、そうすることがより自由な発想へ導いてくれるような気がした。
そんな時に、よく出演している代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」からクラウドファンディングのリターンとして最新ソロアルバム”IMPULSE”のアナログ盤を限定販売したいとの申し入れがあった。(https://motion-gallery.net/projects/haremame)

クラウドファンディングについて詳しくは知らないが当面予定も何もない今、外に向けて誰かと何かをすることはこの惰性化した自粛生活にメリハリをつける意味でも精神的に良いことに思えた。
アーティストが困窮する中、当然ライブハウスはより切実にこの事態に苦しんでいる。

生き残る手段を模索しこの苦境に立ち向かっている彼らの行動力には刺激された。
自分に何かできることがあるのならと快くお受けした。

アルバムジャケットのデザインも自前でということでやることが増えることで肉体も精神も活性化していく。
先日、この流れでYoutube「HAREMAME TV」の生配信ライブも行った。

突如発生したウイルス感染によってもたらされた損失は計り知れなく精神的なダメージもこの先まだまだ根深く続くだろう。
しかし、この史上最悪な春休みは、時間に追い立てられ目まぐるしい日々を生きる現代人に強制的に休暇をもたらしたようにも思える。
今一度この世界を見直すようにと大いなる運命に諭されてるような気がした。

以上が俺の長い春休みの感想文。
未来は個人レベルで小さなことから変えていくことで今よりも世界を豊かにすることができると思う。

このコラムの依頼を受けた時、こんな時に何を書けばいいのか?と思いながらも書き始めると予想通り不安ばかりが露出して取り留めのない文章にしかならなかった。
依頼を受けたことを少々後悔したが書くことで今の自分を見直す機会と思い何度も書き直しているうちに書きたいことがないのなら、この取り留めのない気持ちを書けばいいんじゃないかと思い書いたのがこの感想文です。

楽しんで貰えたなら嬉しいな。

照井利幸

1990年、”Blankey Jet City”のベーシストとしてメジャーデビュー。
2000年、バンド解散後、ROSSORAVENTWIN TAILPONTIACSなど日本ロックシーンをリードするバンドやプロジェクトにおいて、独創的なベースアプローチを披露し第一線で活躍。
自主レーベルWELD MUSICにおいて、精力的に音楽制作、ライブ活動を行なっている。
近年では映画監督豊田利晃作品『泣き虫しょったんの奇跡』で音楽を担当する。
自身のファッションブランド、THEREのデザイナー兼ショップオーナーでもある。

WELD MUSIC http://www.weld-music.com
THERE http://www.there.tokyo

SHARE