「音楽、レコードと共にある日常が過ごせる日に思いを馳せながら、私はこの日常をサヴァイブしていく。」

Vol.1多屋　澄礼（Girlside / Twee Grrrls Club）

「子供を産んだPart Time Punks」

　休日の午後、お気に入りのレコードに針を落としてゆったりと過ごす。今、私にとってそれは限りなく不可能で、限りなく贅沢な時間である。レコードショップを隈無く漁り、クラブでビール片手に選曲し、最近手に入れたレア盤について友人と近況報告をする、かつては当たり前のようなルーティンがすっかり変わってしまってから約2年が経つ。もちろんレコードは継続して買ってはいるものの、レコードショップではなくオンラインで買い、買ったレコードは封も開けず、Spotifyでその作品を聴くのがおきまりだ。

　1才半の双子の母親になってから、私の生活様式はガラリと変わってしまった。音楽が常に隣り合わせにあった生活がとても恋しくあり、いつか自分だけでなく子供たちと一緒にレコードを楽しめる日が来るのが待ち遠しい。そうポジティブに考えられるのは、ある一人のDJの存在のおかげだ。人生を音楽に捧げ、カタチを変えながらも第一線で活躍を続ける、マイケル・ストック。彼はLA、シルバーレイクのライブハウスEchoでレギュラーでDJイベント「Part Time Punks」をオーガナイズし、KXLUでラジオDJとして活動を続けている。その姿は故ジョン・ピールと重なるものがあり、音楽に関する類稀なセンスと幅広く、そして深い知識には頭が上がらない、憧れの存在だ。

　当時24才だった私はとある日本のバンドとSXSWに行く機会に恵まれ、私はマイケル・ストックにコンタクトを取り、バンドをイベントにブッキングできないかと聞いてみると、彼は二つ返事でOKの返事をくれた。以前よりzineのインタビューなどで交流があった彼は私にそのイベントでDJをしないか？と誘ってくれた。勿論私の答えは「YES」。そのイベントでは、その後私がレコードをプレスすることになるSea Lionsが出演し、多くの人が日本から来た私たちを歓迎してくれて、言葉では表せないほど愉しい時間となった。イベントが終わり、その日はマイケルの自宅に泊まる約束をしていたので、ドアがしまらないオンボロの車に乗って彼の自宅へと向かった。真夜中のLA、薄暗いリビングに着くとそこにはFactoryや4ADのレコードコレクションたちが所狭しと並んでいた。ひとつひとつ手にとって見てみたい、そんな欲求に駆られながらも、私はカリフォルニアの日差しとビールでくたびれ果てた身体を休ませるために、彼に案内された部屋へと移動した。そこは彼の娘の部屋だった。まだ小学生くらいだろうか？部屋には彼女のお気に入りのThe Beat HappeningのLPと彼女が描いた絵が飾ってある。The Kinksのジャケットをクレヨンで描いたその絵を眺めながらその夜、私は眠りについた。

　今この文章を書きながら改めてその絵のことを思い出している。その夜、きっと自分は「いつか私もこんな子供が欲しいなあ…」と夢想し、今まで感じたことがないほどにとても幸せな気持ちだった。その甘い記憶が私を鼓舞し続けてくれている。まだまだ道のりは長いけれど、音楽、レコードと共にある日常が過ごせる日に思いを馳せながら、私はこの日常をサヴァイブしていく。

多屋　澄礼（Girlside / Twee Grrrls Club）
ファッション＆音楽 エディター＆ライター。1985年生まれ。レコードショップでの経験を生かし、女性ミュージシャン、アーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、ライティング、diskunionでの『Girlside』プロジェクトのディレクションを手がけている。翻訳監修に『ルーキー・イヤーブック』シリーズ。著書に『フィメール・コンプレックス』『インディ・ポップ・レッスン』『New Kyoto』など。

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