ハワイに行けない。
2020年5月20日現在、とにかく自粛の日々が続いている。3月の時点では、1年に2回行われているワイキキのアンティーク・フェアへ行くつもりだったが、結局は渡航すらできないまま自宅にいる。DJで家を空けることも無くなり、デジタルで管理されたダンス・ミュージックとの距離が、ある種の開放感と共に遠くなる。最近ようやく始めたストリーミング・サービスのおすすめアーティストも趣味に合わない。塞ぎがちな気持ちのカウンターでハワイ欲が増す。ハワイに行けないばかりか、音楽も聴きたく無い。
行くはずだったアンティーク・フェアでは昨年も色々と購入した。ハワイで最も有名なエンターテイメント・グループ、ソサイエティ・オブ・セヴンのガラスコップや缶バッジ、インターナショナル・マーケット・プレースの銅像でも知られるカカアコ出身のスーパースター、ドン・ホーのソフトビニール製スクイーズ・ドール、アメリカのコンテンポラリー・アーティスト、デイル・ルーシャルが手掛けたロイヤル・ハワイアン・ホテルのセラミック製オブジェなど。戦後リゾート・アイランドと化した「夢のハワイ」を象徴するような観光グッズと共に、もちろんハワイアンのレコードも買い漁る予定だった。
映画「ブルー・ハワイ」が日本でも公開された1961年、夜のワイキキを華やかに彩ったホテルのナイト・クラブでは、オーシャンビューをバックに、歌やダンスのハワイアン・ショーが連日行われていたと聞くが、ショービジネスを支え、ローカルのスターとなったアーティスト達が、夜の熱気そのままにレコーディングしたアルバムを見つけては、「夢のハワイ」へと思いを馳せる。ある時フェアの一角でエサ箱から取り出したクイ・リーのレコード・ジャケットを眺めていると、ヨレヨレのアロハシャツに白髪ロングヘアーの店主が熱心に話しかけてきた。「クイは母親の友達だった」的な嘘くさい現地あるあるエピソードを聞かせてくれて、その日が更に良い一日となったのを覚えている。店主は宇治田みのる似だった。
ハワイでのエピソードを胸に自宅のレコード・プレイヤーでクイ・リー『The Extraorinary』を聴く。後にプレスリーがカバーした”I’ll Remember You”で広く知られることになるが、皮肉にも癌により34歳という若さで亡くなったクイの死後の1966年にリリースされた唯一のアルバムだ。アレンジを務めたのは、後にリリースされたアルゾーのソロ・アルバムを始め、アル・クーパーやフリー・デザインなどの仕事でも知られる名ギタリスト&ソングライターのスチュワート・シャーフ。そのアルゾーの作品にも通じるフォーキーな空気感がハワイというフィルターを通すことにより、彼の仕事の中でも波の分だけ風通しがよく聴こえる(気がする)。
風通しの悪い京都の自宅でレコードを聴きながら現在のハワイへと思いを馳せる。ジャケットに写るクイの弾けるような表情と一緒に、裏面に書き記された彼の伝記を読み解いていく。彼の途方もない才能にホノルルの聴衆が熱狂し、その後アメリカ本土にもプロモーションが続いていくことなど、レコードのノイズの向こうで当時の盛り上がりまで聴こえるような気がする。残念ながらクイのライヴを観ることは一生叶わないが、彼のオリジナル・ソングに一喜一憂しながら、個人的なハワイでの色々をクロスオーバーしていくことで、ストリーミングではフォローできないノスタルジーで胸がいっぱいになる。自粛の最中、僕なりの方法で自宅でのハワイを満喫している。
HALFBY(ハーフビー)
京都在住のDJ/トラックメイカー。2002年セカンド・ロイヤルからデビュー。2006年にはトイズ・ファクトリーからメジャー・デビューも果たし、これまでにインディー時代と合わせた5枚のアルバムをリリース。5thアルバムとなる「innn HAWAII」では、ハワイというノヴェルティなテーマを設定し、Alfred Beach SandalやVIDEOTAPEMUSICなどをゲストに迎え、多彩なエッセンスを用いながら、南国風景の広がるコンセプチュアルでネオエキゾティカな世界に漂流。その続編となる最新作「LAST ALOHA」を2018年にリリース。平日はリミキサー/アレンジャーなどと並走し、 アーティストへの楽曲提供から、企業CM、 映画音楽などの制作、 週末はDJとして京都から全国各地へ。